イニシエーション/トリニティ/フラクタル

イニシエーション(初回生産限定盤)(Blu-ray Disc付)

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イニシエーション(DVD付)

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2012年を凄絶な速度で駆け抜けた渋谷慶一郎。その残像の周縁に散乱する無数の線は「おわりの音楽」をめぐる省察通奏低音としながらオペラ『THE END』へと収束した。その極限的な探究の果てに抽出された重層的な暗号の網の目は、私たちに解読の欲望を喚起しつつも容易に言語化することを許さない過剰さを孕んでいる。しかしそうした暗号の錯綜を解読する格子がこの『イニシエーション』にあらかじめ内包されていたとしたらどうだろうか。


『イニシエーション』の楽曲構造に着目すると、そこには大きく〈A-B-A〉という構成を見出すことができる。ここでメロディAを切り取ると、そこには〈a-a'-a〉という構成が現れる。そしてこのメロディaとメロディa'は、まるで互いを鏡に投影したかのような反転した音型を旋律内に含んでいる(ex:メロディa冒頭の「レ→ラ」と上行する音型とメロディa'冒頭の「ラ→レ」と下行する音型)。こうした音楽的な特徴を「三部形式」や「反行形」といった楽典的な術語によって名指すことも可能ではある。しかし、むしろここで重要であるのは、こうした極めて正統的な作曲技法に即して「三項関係(トリニティ)」と「自己相似性(フラクタル)」が織り成す美しい均衡が集約されているということだろう。


「三項関係」と「自己相似性」を重ね合わせることによって導き出されるイメージは『イニシエーション』のPVにおいても執拗に反復されている。このことは、このPVが三人の《ミク》による同期的なダンスによって起動し、《ミク1》の指紋の襞をさまよう《ミク2》の耳介の奥へと滑り落ちる《ミク3》において唐突に停止することにも端的に現れている。


そしてこの「三項関係」と「自己相似性」を内包した『イニシエーション』の楽曲構造は、オペラ『THE END』の物語構造とも奇妙な符合を示している。例えば、提示部としてのメロディAにおけるメロディaとメロディa'の対比は、オペラ序盤での《ミク》とその《影》との間における緊張関係を示しているかのようである。また、展開部としてのメロディB終盤において現れる官能的な舞踏のようなパッセージは、オペラ中盤での《ミク》と《動物》との出逢いによってもたらされた性急な転換と呼応している。そして、再現部としてのメロディA'における鮮烈な転調(それまで「ラソファミ→レ」と下行していた旋律が「ラソファミ→ファ」と上行すると同時に短三度上へと移行する転調)は、オペラ終盤での《超生物》への進化とその劇的な飛翔と重なり合っている。さらに言えば、終結部としてのメロディCにおける突然の幕切れは、オペラの終幕を飾るアリア『イニシエーション』の自己相似形そのものである。


今後も私たちの解読の欲望を喚起し続けるであろうオペラ『THE END』の青写真が、一夜にして生み出されたという『イニシエーション』の中にあらかじめ圧縮的に閉じ込められていたという推察も、あながち荒唐無稽な夢想ではないだろう。



[追記]
なお、本盤には、ADH(ATAK Dance Hall)の系譜に属する強烈なダンストラック『RT/リアリティ』と『ゴーゴーバー』が収録されている。もしこれらのトラックに連なる軌跡を体感したいならば、以下のアルバムに収録されているDJ JIMIHENDRIXXX(a.k.a.Keiichiro Shibuya)によるリミックス作品をお薦めしたい。

きらきら(初回生産限定盤)(DVD付)

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DEAR FUTURE

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リコンストラクション・シリーズ

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